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札幌高等裁判所 昭和51年(ネ)323号 判決 1979年5月31日

控訴人 北海道建設砂利株式会社

被控訴人 国

代理人 大藤孝史 ほか五名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事  実<省略>

理由

一  当裁判所は、当審における新たな証拠調の結果を斟酌しても、控訴人の本訴請求は、失当として棄却すべきものと判断するものであるが、その理由は次のとおり訂正し、附加するほかは原判決がその理由において説示するところと同一であるからこれを引用する。なお当審における証人山木正夫の証言および控訴人代表者本人尋問の結果は当審証人村上基、同大橋政美の各証言と対比してたやすく措信することはできない。

(一)  原判決一三枚目表九行目「ところで、」から一四枚目裏末行(同法第一九条第二四条参照)。」までを削り、次のとおり附加する。

ところで<証拠略>および弁論の全趣旨並びに<証拠略>を総合すると、前示のように石狩川がその水流を移動したため、旧石狩川の水流の敷地跡(原判決添付図面表示の新水路敷地部分)は荒地状となつていたが、右土地部分は石狩川の河川区域内の国有地として公共用財産に属するものであることが認められる。

即ち、旧河川法(明治二九年法律第七一号)第二条第一項は、「河川の区域は地方行政庁の認定する所に依る。」と定めていたところ、北海道長官は昭和九年一一月一日北海道告示第一五九一号によつて、「河川区域を石狩川については、右岸、左岸とも「北海道石狩国上川郡愛別村字中愛別一五線以下海に至る区間の国有川敷全部」と認定したこと、右国有川敷は、北海道国有未開地処分法(明治三〇年法律第二六号)による国有未開地売払等の場合にも除地されていること、河川法(昭和三九年法律第一六七号)第六条第一項によれば、旧河川法上の河川区域のうち同項第一、第二号に該当するものは当然に、右各号に該当しない部分は河川法施行法(昭和三九年法律第一六八号)第三条によつて、政令で定める日までの間河川法上の河川区域とみなされるから、旧河川法上の河川区域はそのまま河川法上の河川区域となつたこと(なお被控訴人は、昭和四五年四月二二日建設省告示第六九九号をもつて、河川区域の指定をしている。)而して河川区域の管理の事務は国の事務であり、地方行政庁がその事務を執行すべきものとされていること(旧河川法第六条、河川法第九条)、また旧石狩川の水流の敷地跡(前記新水路敷地部分)は、石狩川の河川区域内の国有地に該当するものであることが、いずれも認められる。

従つて右旧石狩川の水流の敷地跡(前記新水路敷地部分)は、国有財産法上の公共用財産に該当するものということができる。

そこで次に、公共用財産について民法上の囲繞地通行権が成立するかについて検討する。

凡そ公物は直接に公の目的に供用される物をいうのであるから、私物と異り、無条件に私法の適用を受けるものではなく、その目的を達せしめるうえに必要な限度においては、少くとも私法の適用が排除されることは当然ということができる。旧河川法第三条は「河川並其ノ敷地若ハ流水ハ私権ノ目的トナルコトヲ得ズ。」と規定しているが、これは公共性を重視する立場から、一切の私法的な権利を排除することを目的として規定したものと解すべきか、所有権のみを否定したものと解すべきか、については争いがあつたが、一般的には前者の趣旨と解されていた。従つて旧河川法のもとにおいては河川区域に囲繞地通行権を認める余地はないものと解さざるを得ない。

しかし河川法第二条第二項は、「河川の流水は私権の目的となることはできない。」と規定するに止め、河川区域の土地について私法上の権利の成立を排除してはいないから、右土地について囲繞地通行権が成立するか否かが問題となるが、旧河川法のような特別の規定がない以上、河川法第六条に規定する河川区域は私権の目的となりうるが、河川と一体となつて「公共用物」としての目的を達成するに必要な限度において、私権の行使が制限されるものと解することが相当である。

而して河川法における河川の管理は、河川管理者が、河川について洪水、高潮等による災害の発生の防止、河川の適正な利用および流水の正常な維持をはかり、公共用物としての河川本来の機能を発揮させるために必要な一切の保全ないし利用措置ををなすべきことを命じているのであるから(河川法第一条、第二条および第二章)、右の如き河川管理に支障を及ぼす虞のある行為を制限し、或いは禁止することも右河川管理に含まれることは当然であり、従つて河川区域に成立する私法上の権利につき、その内容が河川管理に支障を及ぼす虞のないように制限されるべきことも当然であるといわなければならない。

次に民法の相隣関係に関する規定は、相隣接する土地相互の利用を全たからしめるため、各所有者に対し一定の範囲において協力すべきことを定めたものであるが、その主体は所有者であることを要するものではなく、権限に基いてその土地を利用している者もその主体たりうることは肯定されるべきである。

以上の見地に立つて、本件について考えてみると、控訴人が前示A地およびB地から、公道である市道西四線に至るために、旧石狩川の水流の敷地跡である本件新水路敷地部分につき、民法所定の囲繞地通行権を取得することについては、河川法が河川区域の土地につき私法上の権利の成立を排除していない以上、これを肯定すべきである。

然しながら他方河川法は、公共用物としての河川の適正な利用とその保全を河川管理者に命ずることによつて、河川本来の機能の維持とその発揮を期待しているのであるから、河川区域に成立する囲繞地通行権の内容は、右河川法の所期するところと両立しうるものに制限されるべきことも、また、当然であるということができる。

凡そ河川区域の利用については種々の形態が考えられるため、そのために必要な通行形態も多様であることは容易に推測しえられるところであるが、少くとも相当の重量物件を常時搬出入するための通行権が民法第二一〇条の規定に基き河川区域に成立することは、かかる通行によつて河川区域内の土地の形状を変更させる虞がないとはいえないことを考慮すると(河川法第二七条第一項参照)、これを消極に解さざるを得ない。

而して、控訴人の主張する囲繞地通行権の内容はトラツクを利用して採取した砂利を運搬するための通行を含むことは弁論の全趣旨から明らかなところ、このような通行までも被控訴人に受忍する負担を負わせることは、上記に説示した理由から相当ではないと解すべきである。

よつて控訴人は、囲繞地である河川区域内の本件新水路敷地部分につき、トラツクによる通行の権限をも含む囲繞地通行権を取得することはできないというべきである。

また慣習によつて控訴人の主張する如き、採取した砂利を運搬するための囲繞地通行権が成立することを認めうる何らの証拠もない。

ところで、右のとおりであるからといつて、本件において控訴人がA地およびB地から公道である市道西四線に至ることが全く不可能であるという訳ではなく、控訴人は、河川法第二四条、第二七条に基いてA地およびB地から右公道に至るため河川区域の通行または道路開設の許可を求めることができ、この場合河川管理者は、河川の目的にてらし、他の自由使用を妨げることがなく、かつ公物本来の機能を害するものでない限り、その使用を許可すべきものと解されるから、かかる使用権の設定を受けたうえこれを使用することができたのである(但し控訴人が本件において右の通行の許可を求める手続をとつていないことは、弁論の全趣旨から明らかである。)。

尤も右使用権が設定されたときにおいても、それは公共用財産としての河川の公共的機能を果すことを防げない限度で認められるにすぎないものであるから、治水のため改修事業が行われるというような場合は、河川法第七五条に基いてその許可が取消されることがあつてもやむをえないものということができ、この場合には同法第七六条第一項によつて、これにより生じた損失の補償がなされることになるのである。

(二)  原判決一一枚目裏五行目の「五九三番地」を「五九三番」と訂正する。

(三)  原判決一五枚目裏七行目の「事業契約」を「事業費」と訂正する。

(四)  原判決一六枚目表二行目の「工事設明会」を「工事説明会」と訂正する。

(五)  原判決一七枚目一二行目の「その後被告は」から同一四行目の「認められる。」までを削り、次のとおり加える。

その後被控訴人は、右掘削工事の進行に伴つて、右迂回路を再三に亘つて変更した結果、最終的には昭和四二年八月一日頃まで、右A地およびB地と市道西四線との通行は保たれていたことが認められる。

(六)  原判決一七枚目裏二行目の「被告」を「控訴人」と訂正する。

(七)  原判決一七枚目裏一二行目の「昭和四〇年五月ころ以降」から、同一八枚目表三行目の「ものであるが、」までを削り、次のとおり加える。

昭和四〇年五月ころ以降昭和四二年八月一日ころまで再三に亘つて迂回路を設けて、A地およびB地への通行を確保する措置を取つていたのであるから、被控訴人においてもできうる限り控訴人の右通行の確保に努力したものというべく、従つて控訴人において右通行が或る程度制限されたとしても、これは止むを得ないものというべきであり、更にその後において前記迂回路が遮断された結果、A地およびB地から市道西四線へ至る通行が不能となつたものであるが、

二  以上のとおりであるから、控訴人の主張する不法行為を理由とする本件損害賠償請求は、その余の争点につき判断するまでもなく失当として、これを棄却すべきところ、これと同趣旨の原判決は相当であるから、民事訴訟法第三八四条第一項の規定によつて本件控訴はこれを棄却し、訴訟費用の負担につき同法第九五条、第八九条の規定を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 安達昌彦 塩崎勤 村田達生)

【参考】 第一審判決

(札幌地裁昭和四四年(ワ)第六四三号昭和五一年九月二九日判決)

主文

一 原告の請求を棄却する。

二 訴訟費用は原告の負担とする。

事  実 <略>

理由

一 原告が昭和三八年七月二七日ころ訴外栗山孝信との間においてその所有の樺戸郡新十津川町字下徳富五九三番地(後に同二三四番地の六と地番変更)雑種地三九、九八三平方メートル(別紙図面A地及びB地)につき採石権設定契約を結んだことは、当事者間に争いがなく、<証拠略>によれば、右の採石権の内容は存続期間昭和三八年七月から一〇年間、砂利及び砂採取量一か年一万坪以内というものであつたこと、原告はこの採石権に基づきA地及びB地を唯一の事業場として多大の資本を投じて砂利採取をなし、砂利販売業を営んでいたことが認められる。

二 そして、<証拠略>及び弁論の全趣旨によれば、A地及びB地はもと石狩川に対しその右岸に位置していたが、その後右石狩川水流が北方に湾曲移動したため、遂にその左岸に位置するに至り、かつ、東、北、西の三方を石狩川に、南方を民有地及び国有地たる旧石狩川水流敷地跡に囲繞されるに至つたこと、A地及びB地からの採取砂利の運搬は、砂川市街方面から順次砂川市管理にかかる市道南四号線を西進して市道西四線に達し、次いで市道西四線を北上してその起点たる砂川市西豊沼二二七番地(市道南三号線との交点)迄至り、更にその先に存する国有地たる右旧石狩川の水流の敷地跡で荒れ地となつていた土地(後記新水路敷地部分)を通り次いでこれに隣接する民有地内を経てA地及びB地に達する通路を利用してこれを行なつていたものであり、石狩川右岸からの砂利の運搬は橋を架すとか、舟筏を用いるとかする外なく、従つて経済上極めて困難であつたことが認められる(原告が右経路を使用していたことは当事者間に争いがない。)。

原告において右市道西四線は、これと前記南三号線との交点かから更に北方まで延びており、したがつて、前記旧石狩川河川水流の敷地跡で荒地状となつていた土地(後記新水路敷地部分)も、これが市道西四線の一部である旨主張するが、これを認めるに足る証拠はなく、却つて、前記認定のとおり認められるのであるから、この点の原告の主張は採用し得ない。

三 そこで、次に原告の右国有地たる旧石狩川の水流の敷地跡で荒地状となつていた土地(後記新水路敷地部分)についての通行の権限の有無につき検討することとする。

<証拠略>および弁論の全趣旨によれば、A地及びB地はその東、北、西方を石狩川が湾曲して流れており、又、その南方には民有地及び国有地たる旧石狩川の水流の敷地跡で荒地状となつていた土地(後記新水路敷地部分)により囲繞せられていたこと、原告は昭和三八年七月二七日ころ右A地及びB地につき採石権を取得したものであることは前示のとおりであり、したがつて右A地及びB地は公路たる市道西四線に通じていなかつたことが認められる。

ところで、弁論の全趣旨によれば、前示のように石狩川がその水流を移動したため、旧石狩川の水流の敷地跡(後記新水路敷地部分)は荒地状となつていたが同地は処分されることなく、旧河川法(明治二九年法律第七一号)第四条により河川の区域となつていたが河川法施行法(昭和三九年法律第一六八号)第三条により昭和四〇年四月一日以降河川法(昭和三九年法律第一六七号)第六条の規定による河川区域として国において管理されていたことを認めることができる。したがつて、右旧石狩川の水流の敷地跡は、なお国有財産法第三条一項二号の公共用財産であつたわけである。そこで、公共用財産に対し民法上の囲繞地通行権が成立するかであるが、一般的に河川、海岸、道路、公園等を構成する公共用財産たる土地については、そのそれぞれの有する公共的機能を十分に果させるため必要な限度で、これらの土地につき公法的な規律の対象とする必要があり、そのためそれらの土地については、少くともその目的を妨げるような限度においては、私法的規律の適用が排除されるものと解される。したがつて、本件の場合においても、前示のようにA地及びB地が河川区域に囲繞され、これを通らなければ公路たる市道西四線に至ることができなかつたといつても、河川区域は河川について洪水等による災害の発生を防止し、河川が適正に利用され、流れの正常な機能を維持する目的で設けられかつ管理されること、又、河川管理者は河川工事実施基本計画を定める義務を負い(河川法第一六条)、同工事を実施し得るものであることに鑑みると、このような河川区域内の土地たる囲繞地については袋地のため少なくともトラツクによる如き通行を受忍する負担を負うべきものではないと解するのが相当である。換言すれば河川区域内の土地により囲繞せられた袋地の所有者は、囲繞地たる河川区域内の土地につきトラツクによる如き囲繞地通行権を取得することはないものと解することができる。尤も、本件のような場合において、A地及びB地から公路たる市道西四線への通行がまつたく不能となるわけではなく、原告が河川法第二四条、第二七条に基づき囲繞されたA地及びB地から公路たる市道西四線に至るため河川区域の通行又は通路開設の許可を求め、その許可を得たうえでこれを通行し得るものというべきである。そして、本件においては、旧石狩川の水流の敷地跡はすでに荒地状となつていたわけであり、砂利運搬のためのトラツク等通行により直ちに治水上の障害が発生するような事情は本件全証拠によつても窺うことができないもので、原告が同法に基づき右通行の許可を求めた場合には、被告としてこれを許可するにつき特段の障害はなかつたものと考えられる。(但し、原告が、本件において右の通行の許可を求める手続をとつていなかつたことは、弁論の全趣旨より明らかである。)そして、右使用権が設定されたときは、それは公共用財産としての公共的機能を果すことを妨げない限度で認められるに過ぎないものであるから治水のための改修事業が行なわれるというような場合には河川法第七五条二項四号に基づきその許可が取消されることがあつてもやむを得ず、この場合には同法第七六条一項によりこれにより生じた損失の補償がなされるに過ぎないものというべきものである(同法第一九条、第二四条参照)。

したがつて、原告が本件新水路敷地部分につき囲繞地通行権を有していたことを前提とし、その通行権を侵害したことに基づく請求は、そもそも本件においては本件新水路敷地部分に囲繞地通行権が存することは認められないのであるから、その前提を欠き理由がないものといわなければならない。

四 ところで、原告は本訴において通行権の性質を囲繞地通行権と解し、これが侵害されたものとして損害賠償の請求をしているが、原告はその通行権の性質に必ずしもこだわるものではなく、要するに、A地が囲繞されたことに基づいて発生した通行権ないし利益が侵害されたことに対し、その損害の賠償を求めているものと解されるので、前示のようにA地において存する囲繞地通行権に類する権利ないし利益に対し、請求原因3の(一)及び(二)記載の侵害行為が成立するかにつき以下検討することとする。

<証拠略>によれば、建設大臣は一級河川石狩川改修工事に伴う砂川地区改修事業(本件改修事業)として、昭和四〇年度を初年度とする石狩川の支川豊沼奈井江川分流点から、同河川の支川空知川合流点に至る約八、一八〇メートルの区間に事業契約四億六、〇〇〇万円を以つて掘削、浚渫、築堤、護岸、水利、堤内排水路等の河川工事を起業したこと、そして建設大臣は昭和四〇年度以降前記市道西四線の起点からそれに接続して北方に存する土地(前記原告においてA地及びB地から採取した砂利を同所から市道西四線起点迄運搬するのに使用していた通路部分を含む一帯の土地)を石狩川の新水路の流水の存すべき土地とすることを計画し、そのため同地を掘削、浚渫する工事を施行することを定めたことが認められる。そして、北海道開発局石狩川治水事務所奈井江事業所長安彦弘が昭和三九年一一月四日現地において工事説明会を開いたことは、当事者間に争いがなく、<証拠略>によれば、右説明会は砂川地区で砂利採取業を営んでいる原告ら業者を対象としたものであつたこと、右説明会の席上において奈井江事業所長らは、前示改修事業計画及びその施行のための用地等の買収並びにこれに伴い生ずる補償につき説明を行なうとともに、本件改修事業の意義、経済的効果などに訴え、砂利採取業者らに用地等の買収についての努力を要請したこと、原告は他に砂利採取の代替地を捜そうとしたものの他に適当な代替地を見つけることができなかつたため、昭和三九年一二月上旬ころになつて、昭和四〇年度からA地及びB地における砂利採取業を廃止することを決意し、そのころ右A地及びB地に設置した電気設備などの撤去にかかつたこと、しかし、北海道開発局石狩川治水事務所長は昭和四〇年二月二六日ころ原告に対し補償問題未解決のため、原告においてA地点及びB地における砂利採取及び前記新水路敷地部分を通行しての砂利の運搬は差支えなく、但し、新水路敷地部分の通行については、申請があればその掘削浚渫工事の施行に支障のない個所につき通行を許可する方針である旨通告したが、原告は昭和四〇年四月以降右砂利採取及びその運搬を再開しようとしなかつたことを認めることができる。

しかしながら、右奈井江事業所長の説明会における発言をもつて、これを違法なものということはできない。即ち、右の発言はあくまでも本件改修事業の計画の説明及び原告らに対する用地等の買収、補償についての協力の要請の趣旨のもとに行なわれたものに過ぎず、これを以つて原告に強迫等その意思に不当な影響を及ぼしたものということはできないし、又、そもそもその発言自体の効力として、現実に原告の右砂利採取、運搬を禁止する効力を有しているものではなく、そのうえこれにより直ちに原告の右砂利採取及び運搬が現実に妨害されたものとみることもできないからである。したがつて、奈井江事業所長の前記説明会における発言を不法行為ということはできないから、これが不法行為たる侵害行為にあたることを前提とする原告の賠償請求の主張は理由がないものというべきである。

2 次いで<証拠略>によれば、被告は昭和四〇年五月ころ以降右新水路敷地部分の掘削工事に着手したため同部分の通行は遮断されるに至つたが、同所の東方の未掘削部分に迂回路を設けたので、右A地及びB地と市道西四線を結ぶ通行に支障はなかつたこと、その後被告は同年七月ころに至り右掘削工事の進行によつて、右迂回路を遮断するに至つたことが認められる。ところで、前示のように本件改修事業は建設大臣の起業により適式な手続を経て行なわれたものであり、そして、被告が本件新水路敷地部分の通行の許可を受けていたとしても、それはその性質上公共用財産としての河川敷の公共的機能を果すため必要な限度で制約を受けるものであることも前示の通りであるから、本件の石狩川の治水事業という公共的目的のために、許可の取消がなされてもやむを得ないものであり、許可を受けていない本件の場合においても、被告は事実上なされていた原告の通行を適法に制限し得るものというべきである。前示の如く、被告においては昭和四〇年二月二六日ころ原告に対し、新水路敷地部分の通行について、申請があればその掘削工事の施行に支障のない個所につき通行を許可する旨の通告をなし、また、昭和四〇年五月ころ以降同年七月ころまで迂回路を設けて、A地への通行を確保する措置を取つていたのであるから、この程度の制限を受けても原告はこれを甘受せざるを得ないものというべきである。又、被告は昭和四〇年七月から前記迂回路も遮断し、この限りでA地から市道への本件新水路部分の通行が不能となつたものであるが、被告は前示のとおり河川工事の必要上これをなしたものと認められるから、原告が通行の許可を受けていたとしても、これを適法に取消し得る場合であることは明らかであり、殊に本件においては原告はこの許可を受けていたものではないのであるから、河川工事による制限を受け通行が不能になつたとしても、これをもつて不法行為ということはできない。なお、原告は既にこの時点では砂利採取の営業活動を行なつておらなかつたのであるから、原告に営業侵害による損害が発生するということはありえない。

五 以上のような次第で、その余の点につき判断するまでもなく、原告の請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 磯部喬 畔柳正義 平澤雄二)

別紙図面 <略>

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